Zennの自動翻訳から考える『公開』の概念
著作権法・利用規約・ライセンスの3層から「公開」の同意範囲を検討する
2026年1月9日、Zennは「記事の英語版生成の実験的な提供を開始します」とアナウンスを行った1。
この発表によると、既に投稿されている記事に対して、自動で英語版に翻訳された記事を生成するのだという。
しかしこの機能はユーザーからの反応を受けて、翌日2026年1月10日をもってオプトアウト方式からオプトイン方式に変更されている。
この一連の動きは、「公開」という行為が何への同意を構成するのか、という問いを浮き彫りにした。 ある人は、「公開した時点で、どう利用されても仕方ない」という旨の主張も行っていた(現在は削除済み)。この主張に同意する反応も、X(旧Twitter)上で見られる。しかし本稿は、その主張には疑問を向ける。
「公開」と「翻訳」は法的に別個の行為である。では、「公開」という行為は、実際には何への同意を構成するのか?
本稿では、Zennを具体例として、著作権法・利用規約・ライセンスの3層から、「同意の範囲」という概念を検討する。すなわち、「公開」がどこまでの利用を許諾するのか、その構造を検討する。
著作権法における権利の独立性
まずは、著作権法において「公開」と「翻訳」がどのように扱われているかを確認する。つまり、ここで扱うのはZenn固有の問題ではなく、一般的な構造問題である。
「e-Gov 法令検索」2を使うことで、法令を検索することができる。 以下は、https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048 3からの引用となる。
(複製権) 第二十一条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
(公衆送信権等) 第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。 2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
(翻訳権、翻案権等) 第二十七条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利) 第二十八条 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。
これら各条文を見ると、公衆送信権と翻案権は、それぞれ別の項目としてその「専有」が明記されている。このことから、少なくとも「公衆送信権には翻案権が付随する(公開への同意は、翻訳・翻案への同意を含意する)」といった解釈ではなく、公衆送信権と翻訳権・翻案権は互いに独立している、と見るのが妥当だろう。 なお、第28条は、翻訳のような二次的著作物の利用についても、原著作者が権利を専有することを定めている。つまり、翻訳物が作成された場合でも、その利用(公開など)には原著作者の許諾が必要となる。
これらのことから、一方の権利(公衆送信権)を行使したとしても他方の権利(翻訳権・翻案権)は引き続き著作者に留保されるのであって、公衆送信権の行使(=公開)は、翻訳権の放棄を意味しないということが言えるだろう。
著作権法上の各権利は著作者にそれぞれ独立した形で留保されるのだとすれば、「公開した時点で、どう利用されても仕方ない」という論は、この法構造と矛盾する。つまり、この論は法構造を無視した主張であると言えるだろう。
では、プラットフォームの利用規約は、この法的デフォルトをどのように扱っているのだろうか? 次に、Zennの利用規約を確認する。
利用規約における同意の範囲——Zennの事例
Zenn利用規約第6条(著作権等)第4項4は以下のように定める:
利用者は、運営者が利用者コンテンツを本ウェブサイトに掲載し、これを配信(公衆送信および送信可能化することを含みます。)することを許諾するものとします。
この条項に従う場合、利用者が許諾しているのは掲載と配信、すなわち公衆送信および送信可能化である。翻訳、翻案、その他の改変については、Zennの利用規約では特に記載がない。つまり、Zennの利用者は、Zennに対して翻訳・翻案権の行使を許諾してはいない。
しかし、実際には翻訳機能が当初オプトアウトの形で実装され、事前の合意がスキップされる形となった。2026-01-10の時点で、オプトイン形式に変更されており、利用者からの能動的な合意が必要な形とはなったが、規約には特に変更が見られない。 また、Zennが提供する翻訳例を見る限り、原文への参照、「Zennによる自動翻訳である」という旨、いずれもUIからは確認できなかった。
Zennの規約では、利用者からZennに与えられる許諾は限定的である。その限定範囲に翻訳が含まれない状態のまま、翻訳機能が提供されている。その上、そのテキストが翻訳であるかどうか、原文がどのようになっているかを確認する手段はUI上に見つからない。これらの齟齬をどう理解するべきだろうか。
続いては、ライセンスによる追加許諾の仕組みを考えてみる。
ライセンス条項と「公開」
著作権法は権利を留保し、規約は限定的許諾を定める。 では、ライセンスは何を追加するのか?Creative Commonsライセンス(以下、CC)を例に見てみよう。
以下は、CC-BY4.0 第一条からの引用である。
Adapted Material means material subject to Copyright and Similar Rights that is derived from or based upon the Licensed Material and in which the Licensed Material is translated, altered, arranged, transformed, or otherwise modified in a manner requiring permission under the Copyright and Similar Rights held by the Licensor.5
「翻案物」 とは、著作権およびそれに類する権利の対象となり、ライセンス対象物について許諾者が有する著作権およびそれに類する権利に基づく許諾が必要とされるような形で、翻訳され、改変され、編集され、変形され、またはその他の方法により変更されたマテリアルで、ライセンス対象物から派生したか、またはライセンス対象物に基づくものを意味します。6
この条文から、CCにおいて翻訳は明示的に「翻案物」に含まれている。また、この第一条はCC-BYのみならずCC-BY-NDでも共通の定義である7
CCにおいては、CC-BYとCC-BY-NDいずれもライセンス対象物の複製や共有、翻案物の作成・複製は許可している。ただし、NDにおいては翻案物の作成・複製物を共有することは、許可の範囲外となっている89。
CC-BY-NDライセンスが付与されている場合、その記事は公開されているが、上記の通り、翻訳して公開することはライセンス上禁止である。よって、CCライセンスの例から見ても、「公開した時点で、どう利用されても仕方ない」は成立しない。
ライセンスは、著作者への権利留保を前提として追加の許諾を定めるが、「公開」の範囲はライセンスによって異なる。CC-BY-NDの場合、「公開」の中に「翻訳の共有」は含まれていない。
まとめ・評価
ここまで検討してきたことをまとめる。
- 著作権法において、公衆送信権と翻訳・翻案権は独立した権利として著作者に留保されている
- Zennの規約は公衆送信権など、限定的な許諾範囲を設定しており、翻訳・翻案の許諾は含まれていない
- CCライセンスは著作者への権利留保を前提に、「公開」の許諾を追加する。ただし、その範囲はライセンスによって異なる
改めて、「公開した時点で、どう利用されても仕方ない」という論について評価してみる。 この論は、上記1~3の論点を全て無視した主張であると解される。「公開」の意味・範囲は、最終的には法・規約・ライセンスの組み合わせで決定すると考えられる。 その組み合わせ次第では、「公開と同時に翻訳も許容される」というケースもありうる(例:CC-BYライセンス)。しかし、それは文脈依存であり、少なくとも「公開した時点で、どう利用されても仕方ない」といった単純化は不適当だ。
Footnotes
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https://info.Zenn.dev/2026-01-09-translate-articles 2026-01-11閲覧 ↩
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「官報で法令が公布される都度、未施行も含めて施行予定日ごとに法令データを更新して提供」している、デジタル庁によるサイト( https://laws.e-gov.go.jp/help/#about-egov より) ↩
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著作権法 2026-01-11 閲覧 ↩
-
https://Zenn.dev/terms 2026-01-11閲覧 ↩
-
https://creativecommons.org/licenses/by-nd/4.0/legalcode.en Section1(a) 2026-01-11閲覧 ↩
-
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/legalcode.ja 第1条(a) 2026-01-11閲覧(参考訳) ↩
-
https://creativecommons.org/licenses/by-nd/4.0/legalcode.en 2026-01-11閲覧 ↩
-
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/legalcode.en Seciton2(a)(1)(B) ↩
-
https://creativecommons.org/licenses/by-nd/4.0/legalcode.en Section2(a)(1)(B) ↩