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#政治 #憲法

自民党改憲案4項目についての私見

自民党改憲案4項目について、特に平和主義・立憲主義の観点からの個人的見解

はじめに

本稿を書くにあたり、自民党公式Webサイトで公開されている「(資料編)「日本国憲法の改正実現に向けて」」を参照した1

私は基本的に、この自民党改憲4項目案には賛成しがたい。 改憲反対それ自体が目的ではない。憲法改正が必要であることが具体的に立証され、かつ国家権力の行使に対する十分に強い歯止めが憲法上明記されるのであれば、論点によっては合意の余地はあり得る。 問題は、自民党案がそうした条件を十分に満たしていないことである。

自民党資料は、自衛隊、緊急事態、合区解消・地方公共団体、教育充実の4項目を優先的改憲項目として掲げているが、全体として「なぜ憲法改正でなければならないのか」と「改正によって国家権力をどう制約するのか」の説明が弱い。 以下、各項目について見解を述べる。

1. 自衛隊明記について

自衛隊を憲法に明記し、現行の解釈上の不安定さを解消しようとする発想自体は、直ちに否定しない。 だが、自民党案のように「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置」を認め、そのための実力組織として自衛隊を保持するとだけ書くのでは、規範として曖昧すぎる。 何が「必要な自衛の措置」に当たるのかが広く解釈できる以上、これは単に自衛隊を明記するに留まらず、将来の拡大解釈の余地を憲法上に組み込んでしまう。

しかも自民党案は、9条2項の交戦権否認を維持しながら、別条で実力組織と必要な自衛措置を明記しようとしている。その結果、条文全体としての意味はかえって拡張されうる。 交戦権否認を残していること自体は制約のように見えるが、追加条項が広すぎれば、その拘束は実質的に弱まる。これでは、憲法解釈の問題を整理するどころか、むしろ新たな解釈上の混乱を生むおそれがある。

日本は、旧日本帝国時代に中国、朝鮮半島、東南アジア諸地域に対する侵略戦争を行った歴史を持つ。さらに現在に至るまで、その歴史的経緯は周辺諸国との外交関係に影を落としている2。 こうした前歴を持つ国家が軍事組織を憲法に明記するのであれば、単にその存在を追認するだけでは足りない。むしろ、過去を繰り返さないという意思、および自衛隊はあくまで自衛のためであって積極的武力行使を目的としないという意思を、憲法上の制約として示すべきである。

このような歴史的前歴を持つ以上、日本の軍事組織の憲法明記は、その存在の追認ではなく、運用限界の固定を伴うのでなければならない。 その意味で、自衛隊を明記するならば、少なくともその運用を専守防衛に厳格に限定する憲法条文を併せて追加するべきである。具体的には以下のような制約を求める。

  • 武力行使は個別的自衛権の範囲に限ること
  • 先制攻撃を認めないこと
  • 集団的自衛権の行使を許さないこと
  • 国外における武力行使を認めないこと

こうした拡張解釈を封じるための憲法上の歯止めが必要である。自衛隊を明記しつつ、こうした制約を書かないのであれば、それは単なる現実追認ではなく、国家の軍事権限を拡張しうる改憲となる。

2. 緊急事態対応について

緊急事態条項についても、私は一概に否定する立場ではない。巨大災害時において、国会機能の維持や迅速な対応の必要が生じること自体は理解できる。 だが、自民党案はここでも「必要性」と「歯止め」の両方が不十分である。 資料は、災害対策基本法や国民保護法など現行法制の整備を認めつつ、なお憲法改正が必要だとするが、現行憲法のどの条項が具体的に障害となり、どのような場面で法律による対応では足りなかったのかを十分に示していない。

もし緊急事態条項を憲法に置くのであれば、対象は少なくとも客観的認定可能性の高い大規模災害に限定されるべきである。 武力攻撃、内乱、テロのような事由は、政治的判断や恣意的認定が入り込みやすく、例外権限の濫用につながる危険が大きい。 にもかかわらず、自民党資料は、主案では災害を掲げつつ、別意見として武力攻撃やテロ・内乱まで対象に含める方向も示している。これは緊急事態条項の対象拡張の余地を残すものであり、極めて危うい。

また、仮に災害限定であっても、内閣が制定する政令には憲法レベルで厳格な有効期限を設けるべきであるし、国会承認が得られなかった場合にその政令の効力をどう扱うのか、既に行われた処分や権利制限をどう清算するのかも明記されるべきである。 「緊急事態である」ということを理由に国民の権利を例外的に制限しうる以上、その適用に対する諸制約は法律レベルではなく、同等以上の地位を持つ憲法条文として規定されるべきである。 さらに、議員任期の特例についても、上限期間を憲法上定めるべきだ。緊急時であることを理由に、国会の統制や選挙による民主的正統性を無制限に後退させることは許されない。

したがって、具体的な立法事実が複数示され、しかも災害限定、有効期限、事後否決時の効果、任期特例の上限などの強い歯止めが憲法上明記されるのであれば、なお検討の余地はある。しかし現状の自民党案は、その水準には達していない。

3. 合区解消・地方公共団体について

この項目について、自民党案は「人口比例のみならず地域性も考慮する」とし、選挙区設定にあたって行政区画、地域的一体性、地勢などを総合考慮要素として憲法に書き込もうとしている。 これは一見すると、地域の実情に即した制度への是正のように見える。だが実際には、投票価値の平等を人口比例に即して実現しようとする原則を弱める提案である。 人口の少ない地域や県であっても「地域的一体性、地勢」などを理由として、独自の選挙区や議席配分を維持・正当化しやすくなることから、人口の少ない地域における議席価値が相対的に高まり、一票の格差は拡大しやすくなる。

地方の声を国政に反映させたいという問題意識自体は理解できる。だが、日本国憲法の下で国会議員は本来、地域の身分代表ではなく全国民の代表である。 地域代表性を理由に、個々人の票の平等という原則を後退させるのであれば、その正当化は相当に厳格でなければならない。しかし自民党案は、その点の説明が十分ではない。

さらに、こうした制度は、地方に既存の組織基盤を持つ大政党に有利に働くおそれが大きい。 これは提案者の主観的意図を断定するものではないが、大政党がもともと資金、組織、候補者擁立能力の面で強い影響力を持つ以上、制度変更がその優位をさらに補強しうるならば、その危険は重く見なければならない。 選挙制度は中立的技術ではなく、政治勢力間の力関係に具体的影響を与える制度だからである。

また、地方公共団体について、市町村と都道府県という現行の二層構造を憲法に固定することにも慎重であるべきだ。 現にそうした制度で運用されていることと、それを硬性憲法に書き込むべきこととは別問題である。憲法に固定すれば、将来の自治制度改革の柔軟性を不必要に狭める。 現行制度の追認を憲法化する必要性は弱い。

第一に人口比例による平等原則の後退を伴うという点、第二に大政党有利の懸念がある点から、少なくとも現時点で憲法改正として賛成すべきではないと考える。

4. 教育充実について

4項目の中では、教育充実が最も穏当に見える。 「個人の経済状況によって教育を受ける機会が左右されてはならない」という観点には、強い異論はない。 また、89条の「支配」を「監督」に改め、現行実務との整合を取ろうとする方向にも、直ちに強い反対はしない。

しかし、それでもなお、これを憲法改正事項とする必要性には疑問がある。教育機会の保障は重要であるが、重要であることと、憲法に追記すべきことは同義ではない。 自民党案のように、「国の未来を切り拓く」といった文言を用いると、教育は個人の権利保障であると同時に、国家目的達成の手段として位置づけられる含みを持つ。 教育が公共的意義を持つこと自体は不自然ではないとしても、不自然でないことは「憲法に書くべき」ことを意味しない。

日本国憲法は硬性憲法であり、その追記には慎重であるべきである。抽象的な理念条項を加えても、法的効果が曖昧なまま政治的スローガン化しやすい。 「よい理念だから憲法に入れる」という発想は、憲法を国家権力の制約規範ではなく政策宣言の場へと変質させる危険を持つ。 教育充実についても、理念として共感しうることと、憲法事項として必要であることは区別されなければならない。

結論

以上のように、自民党改憲4項目案は、個別論点ごとに見れば一定の問題意識を含んでいる。だが全体としては、憲法改正の必要性の立証が弱く、また、改正によって新たに認められる国家権力や制度変更に対する歯止めも不十分である。 とりわけ、自衛隊明記と緊急事態条項のように軍事権限や例外権限に関わる事項については、能力の追認よりも制約の明記こそが先行すべきである。

私は基本的には改憲に慎重であり、現時点ではこの4項目案に同意できない。もっとも、それは改憲反対そのものを目的とするものではない。 現行憲法のもとで具体的に何が障害となっているのかが丁寧に示され、かつ、国家権力の行使に対する十分に強い制約が憲法上明記されるのであれば、論点によっては合意の余地はある。 少なくとも現状の自民党案は、その水準には全く達していないというのが私の評価である。

Footnotes

  1. https://www.jimin.jp/constitution/document/kenpou/material2026.html

  2. 例えば、国連憲章の敵国条項(53条、77条、107条)など https://www.unic.or.jp/info/un/charter/text_japanese/