AIによる予算案審議分析についての私見
NNNで報道された「AIによる予算案審議分析」についての私見
2026年4月11日、静岡大学・狩野芳伸研究室との協力のもと、衆議院予算委員会における2026年度予算案審議が「審議不十分」という言説についてAIによる分析を試みたという報道が日本テレビから出された。
【解説】予算案審議をAI分析 データで判明「不十分」の実態 https://news.yahoo.co.jp/articles/ec9e0223560bcaa14b8ff43013f8e43e80513975
記事によると、「確かに今年度予算案の審議はおよそ59時間で、去年と比べて36%減りました」とした上で、「AIで野党議員が実際に質問した時間をはかってみると合計でおよそ25時間」となり、「これは去年よりも7時間程度、40%も増えて」いるとして、「審議時間全体は短かかったものの、野党議員が質問する機会は去年以上に確保されていた実態が見えて」きたとしている。
さらに同記事では、議論の中身・充実度について「かみあい度」という指標を導入し、「どれだけ質問の趣旨に沿った答弁になっているかどうか」をAIによって分析したという。 これによると、2026年度予算の国会審議における「かみあい度」は「前の年に比べ、11.8パーセント増加」していたという。これについて、同記事では「端的に話す高市首相のスタイルがかみ合い度の高さにつながっているのではないか」という分析を紹介している。 一方、政治資金の使途など特定のテーマでは「かみあい度」が著しく低く出ており、特にカタログギフト配布問題を含む政治改革カテゴリーでは「47パーセントの答弁でかみあい度はゼロ、つまり「質問の趣旨にほとんど答えていない」と判定された」という。
同記事では「データを基に検証すると一概に不十分とは言えないことが明らかになりました」としつつ、「審議時間の長さだけではなく、議論の「質」にも一層目を向ける必要がありそうです」と結んでいる。
この記事の、審議時間の総量だけでなく議論の質にも目を向けようとする姿勢自体は評価されてしかるべきであると考える。しかし、2026年度予算の衆議院審議を評価する記事としては、なお慎重であるべき点が多い。
第一に、この記事は「審議は不十分だったのか」という論点を、実質的に「野党の質問時間は確保されていたのか」という論点に置き換えているように見える。 たしかに、記事が示すように、野党議員の質問時間は前年の18時間から25時間へ増えていたとされる。だが、それは「審議が十分だった」ということを直接意味しない。 予算審議の充実度は、質問時間だけでなく、政府答弁がどれだけ具体的で、論点に沿い、再質問に耐えるものだったかによっても左右されるはずである。
第二に、動画では野党審議時間と与党審議時間の変化は示されている一方で、政府答弁時間については「減っている」ことしかわからず、何時間減ったのか、なぜ減ったのかについて説明がない。 総審議時間が大きく減るなかで、質問時間の増加だけを強調しても、減少分がどこに現れているのかが不明なままでは、審議全体の質を評価することはできない。 政府答弁時間の減少は、答弁の簡潔化を意味する可能性もあれば、説明不足や論点回避の増加を意味する可能性もある。少なくとも、そこを示さずに「質問機会は確保されていた」と結論づけるのは早計である。 「かみあい度」はこの問題を補う意図で導入されたものと思われるが、後述の通り、この「かみあい度」の扱い自体も慎重を必要としており、結果として上記の問題は依然として解消されていない。
第三に、「その他」の時間についても、減っていることは示されているが、具体的な減少量も、その内訳も説明されていない。 この「その他」に何が含まれているのかがわからなければ、分析の妥当性は検証できない。 委員長発言、手続的やり取り、速記停止、理事会協議など、審議の実質に関わる要素が広く含まれている可能性がある以上、ここを曖昧なままにしておくのは不十分である。 見せ方としては情報があるように見えても、評価に必要な情報は欠けている。
第四に、「かみあい度」という指標の扱いにも慎重さが必要である。 記事は、今国会の「かみあい度」が前年度比で11.8%上昇したとする一方で、政治改革のカテゴリーでは47%の答弁が「かみあい度ゼロ」だったとも述べている。 つまり、全体平均では「十分に答弁した」ように見えても、重要な論点では質問にほとんど答えていない答弁が相当数あった可能性がある。 そうであれば、平均値の上昇だけをもって審議の質が向上したかのように描くのは適切ではない。むしろ問われるべきなのは、どのテーマで、なぜ極端に低い結果が出たのかである。 加えて、この「かみあい度」という指標がどのような基準で判断され、どのような教師データを用いられていたのか、この記事では特に言及・参照されていない。 そのため、そもそもこの「かみあい度」という指標が適切に恣意性無く算出されているのかどうかについても疑義が残る。
この記事は「総審議時間が短いからといって、直ちに審議不十分とは言えない」という限定的な指摘として読むなら理解できる。 しかし、それ以上に踏み込んで、今回の衆議院予算審議が相応に充実していたかのような印象を与えるのであれば、根拠はなお弱い。 必要なのは、野党の質問時間が増えたという一点だけではなく、政府答弁時間の具体的な減少量、その意味、「その他」の内訳、そしてAI指標そのものの妥当性を含めた検証である。 そうした情報が欠けたままでは、この記事の評価は結論を急ぎすぎていると言わざるを得ない。