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#政治 #緊急事態条項

緊急事態条項についての私見 #1

緊急事態条項は、政府に包括的な非常大権を与える制度ではなく、非常時にも人権保障・国民主権・民主的統制・法の支配を守るための統制条項であるべきだ。参議院の緊急集会を通常国会への復旧手続として位置づけ、事態類型ごとに例外権限を限定する制度設計を検討する。

議論の状況

近年、日本でも緊急事態条項を憲法に追加する議論が続いている。 2012年に公開された自民党改憲草案の時点で、緊急事態条項の追加が提案されている1

自民党の2018年4項目案では、大地震その他の異常かつ大規模な災害を念頭に、緊急政令と国会議員の任期特例が提示されていた2

2026年には、さらに具体的な議論に入っている。

2026年4月16日の衆議院憲法審査会では、対象となる緊急事態について、大規模自然災害、テロ・内乱、感染症蔓延、国家有事・安全保障、その他これらに匹敵する事態が挙げられた。 これは、2018年の4項目案から、さらに緊急事態の範囲を広げるものである。

また、選挙困難事態の判断要素として、国政選挙の一体性を害するほどの「広範性」と、参議院の緊急集会では対応困難な「長期性」が示された。

さらに、内閣による事態認定、国会の事前承認、議決要件、裁判所の関与、任期延長期間の上限、解散後の衆議院議員の身分復活、緊急政令、緊急財政処分までが論点として提示されている。3

本稿の立場

緊急事態に備える議論そのものについては、本稿ではこれを否定しない。

国会が正常に機能しない事態は実際に想定可能である。発生可能性が低いとしても、実現した際のリスクは極めて大きい。 平時のうちに制度的備えを検討するべきだという主張には一定の妥当性がある。

しかし、緊急事態条項を設けるなら、それは政府に包括的な非常大権を与える条項であってはならないと考える。

むしろ、緊急時に許される例外権限を事態類型ごとに限定し、その期間、延長条件、終了時の回復措置、事後検証を明記するための、国家権力に対する統制条項でなければならない。

しばしば「緊急事態条項を持つ諸外国は多い」ということが指摘されるが、重要なのは「外国にも緊急事態条項がある」ということではない。 各国が、誰に、どのような場合に、どこまでの権限を、どの期間、どの統制の下で認めているかである4

1. 緊急事態条項の目的

緊急事態条項をめぐる議論では、「国民の生命・身体・財産を守るために政府権限を強化する必要がある」と説明されることが多い。

もちろん、緊急時に行政が迅速に動く必要はある。大規模災害、武力攻撃、テロ、内乱、感染症など、通常の行政・立法手続では十分に対応できない事態が起こりうること自体は否定できない。

しかし、ここで手段と目的を取り違えないよう、注意しなくてはならない。

緊急事態条項の第一目的は、政府を強くすることではない。緊急時にもなお、国民の生命、自由、権利、民主的統制、法の支配を守ることである。 政府権限の強化は、その目的を実現するために必要な範囲でのみ、随伴的に認められる手段にすぎないと考えるべきである。 ここを取り違えて、政府権限の強化ありきで緊急事態条項を考えるべきではない。

したがって、緊急事態条項は「政府に例外権限を与えるためではなく、緊急時に政府ができること・できないことをあらかじめ限定するために設ける」という観点から検討されるべきである。

この発想を採るなら、包括的な「必要な措置」条項は危険である。事態類型ごとに、政府に認める権限を明示し、逆に緊急時であっても許されない行為を明記しなければならない。

例えば、ポルトガル憲法19条はこの点で参考になる。同条は、非常事態・戒厳においても、比例原則に従い、範囲・期間・手段が憲法上の正常状態の迅速な回復に厳格に必要な範囲に限られると定めている。 また、停止される権利を宣言時に明示し、生命権、人格的同一性、刑罰不遡及、被告人の防御権、良心・宗教の自由など、停止できない権利も列挙している。5

このような比較から見ても、緊急事態条項において本当に問うべきなのは、「政府に何をさせるか」ではなく、「政府に何をさせないか」である。

2. 緊急事態条項における国会機能

緊急事態において、国会機能をどう維持するかは中心論点である。

改憲推進側は、参議院の緊急集会では長期の国政運営を担えないとして、議員任期延長や、場合によっては解散後の衆議院議員の身分復活まで検討している。 2026年4月16日の憲法審査会では、解散後に選挙困難事態が起きた場合、衆議院議員は身分を失っているため、任期延長では対応できず、解散の効果をなくして前衆議院議員の身分を復活させる必要がある、という論点が提示されている。3

本稿では、衆議院議員の身分復活や議員任期延長は認めるべきではないと考える。

これらは、選挙を経ずに議員資格を維持・復活させる制度である。国民の選挙による民主的統制への侵害が大きい。 とりわけ、解散後の身分復活は、いったん失われた議員資格を復活させる制度であり、任期延長よりさらに強い正当化を要する。 しかし2026年5月2日現時点で、これを正当化するにたる十分な根拠は提示されていない。

その代わりに、現行憲法上すでに存在する参議院の緊急集会を土台とし、その権能、期間、延長条件を憲法上明確にすることで緊急事態における国会機能を定義づけるべきと考える。

ここで重要なのは、この緊急集会の位置づけ、とりわけ期間延長の意味づけである。 「参議院緊急集会の延長は、通常国会の代替ではなく、通常国会への復旧手続である」と考えるべきだろう。

参議院の緊急集会は、長期的な「片肺国会」として位置づけるべきではない。あくまで、衆議院総選挙の実施、衆議院の再開、通常の二院制国会運営の回復までの暫定措置である。

したがって、緊急集会の延長は通常国会機能の回復に必要な限度に限られ、かつ、その都度決議が取られるべきである。 さらに、政府は通常国会機能の回復に必要な措置を速やかに講ずる義務を負わなくてはならない。 そして通常の国会運営が回復できる状態になったなら、緊急集会は速やかに終了しなければならない。

そうした限度を設けなければ、結局は参議院による国会運営が長期化しかねず、衆議院議員の身分復活や議員任期延長と同種の問題が生じる。

また、緊急集会それ自体の濫用を防ぐ意味でも、緊急集会で議題として扱える事項を憲法で限定しておくことが望ましいと考える。 例えば国会機能回復、選挙実施体制の復旧、国民の保護、最小限の緊急財政などが一例だ。

これまでの内容は、チームみらいの古川あおい議員が憲法審査会で指摘した「立法事実の整理」とも接続する。 同議員は、どのような事態に対応するための緊急事態条項なのか、具体的な事実確認から出発すべきだと述べ、大規模自然災害、感染症蔓延、安全保障上の危機それぞれについて、 選挙実施や国会機能維持にどのような課題が生じうるのかを具体的に整理すべきだと指摘している。3

この方向は妥当である。「緊急集会では不十分」と言うだけでは足りない。どの事態において、どの権能が、どの期間、どの程度不足するのかを詰める必要がある。

その一方で、現行ではいくぶん緩やかに定義されている緊急集会について、より厳格な運用上限を定めることが望ましいと考える。

3. 緊急事態条項に関する比較憲法論

緊急事態条項を検討する際、「外国にもある」という事実だけでは、導入の根拠にはならない。 本当に確認すべきなのは、各国が緊急事態条項をどのように設計しているかである4

確認項目問うべき内容
対象事態戦争、武力攻撃、内乱、テロ、自然災害、感染症、経済危機など、何を対象としているか
発動主体大統領、内閣、議会、国王など、誰が発動するか
承認主体議会の事前承認か、事後承認か、承認不要か
期間制限何日・何か月まで許されるか、延長には再承認が必要か
権限内容法律効力命令、財政処分、軍の動員、人権制約、選挙延期など、何が可能か
人権保障制約できない権利を明記しているか、制約可能な権利を列挙しているか
議会統制国会の当然集会、解散禁止、取消権、報告義務などがあるか
司法統制裁判所・憲法裁判所・憲法院などが審査できるか
終了条件事態終了時に権限が当然失効するか、事後検証制度があるか
憲法改正制限緊急事態中の憲法改正を禁止しているか

フランス憲法

フランス憲法16条は、大統領に強い非常措置権限を認める。 しかし、その発動要件は、共和国の制度、国家の独立、領土の一体性、国際約束の履行が重大かつ直接に脅かされ、かつ憲法上の公権力の正常な運営が中断されている場合に限定される。 また、首相、両院議長、憲法院との協議を要求し、国会は当然に集会し、国民議会は解散されない。さらに、30日後には一定の者が憲法院に審査を求めることができ、60日後以降は憲法院が当然に審査する6

ドイツ基本法

ドイツ基本法115a条は、防衛事態について、連邦領域が武力攻撃を受け、またはその急迫した危険がある場合に、連邦政府の申立てに基づき、連邦議会が連邦参議院の同意を得て認定する制度を置いている。 認定には投票の3分の2、かつ連邦議会議員の過半数を要する。さらに、防衛事態中は連邦議会を解散できない7

スペイン1978年憲法

スペイン憲法116条は、警戒事態、例外事態、戒厳事態を区別し、それぞれの権限と制約を法律で定める構造を取る。 警戒事態は政府が宣言できるが、最長15日であり、延長には下院の承認が必要である。 例外事態は政府が宣言するが下院の事前承認を要し、最長30日、同期間の延長が可能である。 戒厳事態は、政府の専属提案に基づき、下院の絶対多数によって宣言される。さらに、これらの事態中は下院を解散できず、憲法上の公権力の機能も中断されない。8

ポルトガル憲法

ポルトガル憲法19条は、非常事態・戒厳を、外国軍による侵略、民主的憲法秩序への重大な脅威または混乱、公共災害に限定している。 また、比例原則、停止される権利の明示、15日以内の期間制限、停止不能な権利、緊急時の憲法改正禁止を定めている5

比較憲法論から考えること

この比較から分かるのは、各国ごとに緊急事態の定義・取り扱いは様々であり、緊急事態条項の有無だけを数えても意味がないということである。

各国の制度を参照するなら、対象事態の分化、期間制限、国会統制、司法審査、人権保障、事後検証をどこまで憲法上明記するかを検討するために参照するべきである。

比較憲法論を踏まえて日本で問うべきは、「日本で緊急事態条項を設けるなら、政府にどの権限を与えるのかではなく、政府にどの権限を与えないのかを、各国以上に明確に書けているか」ということだ。

この問いに答えられないまま、包括的な緊急政令や議員任期延長を導入することは危うい。

4. 緊急事態条項の対象事態

現在の議論では、大規模自然災害、テロ・内乱、感染症蔓延、国家有事・安全保障、その他これらに匹敵する事態が対象として挙げられている3

しかし、これらは性格が大きく異なる。

災害型では、主に問題となるのは、国会の物理的開催、議員の参集、選挙実務、被災地域での投票環境である。

感染症型では、国会そのものよりも、移動、集会、医療、営業、教育など広範な社会活動への制約が問題になりやすい。

テロ・内乱型では、治安維持と政治的反対運動の区別が問題になる。

安全保障型では、軍事情報、国民保護、出入国制限、重要インフラ防護、秘密指定が問題になる。

これらを一つの「緊急事態」として処理するのは危険と考える。安全保障対応のために認めた限定的権限が、災害、感染症、治安、といった他の事態へも横滑りして適用されるおそれがあるからである。 これは明確に権力の濫用であるが、しかし、憲法レベルでその根拠を与えてしまっている。

したがって、緊急事態条項を設けるなら、事態類型ごとに別建てで要件と効果を定めることで権力の横滑りを防ぐべきである。

災害型

災害型では、国会会場の一時的変更、オンライン・分散審議、選挙実施体制の復旧、繰延べ投票などを中心にすれば事足りると考える。一般的な緊急政令権までは不要である。

災害の場合、問題の中心は、国会の物理的開催、議員参集、選挙管理、投票環境だからだ。国会機能を安全な場所で回復できるなら、以後は通常の国会審議で対応できると考える。

感染症型

感染症型では、コロナ禍でも国会機能が維持されていたことを踏まえる必要がある。

将来の感染症がコロナと同程度とは限らないが、まず検討すべきは、国会の遠隔出席、分散開催、オンライン審議、議事運営の継続措置である。 政府に包括的な行政権限を与える方向は、慎重でなければならない。

テロ・内乱型

テロ・内乱型では、武装組織による暴力行為によって通常の法律執行だけでは国会機能または国民の生命身体を保護できない場合に限り、限定的な緊急政令を認める余地はある。

ただし、ここで認められる政令の種類は極力抑制的である必要がある。 政府が、武装組織による暴力ではなく、抗議活動、労働争議、デモ、市民運動、反政府運動を「内乱的危険」と評価して、その上で集会制限、移動制限、資金凍結、通信監視を緊急政令で行うことも可能だからだ。

緊急政令の根拠として認定される「テロ・内乱」は、武装組織による暴力行為に限定されなくてはならない。単なる騒乱、抗議活動、交通妨害、政治的混乱を含めてはならない。

安全保障型

安全保障型では、武力攻撃またはその明白かつ差し迫った危険に直接対応するため、国民保護、避難、出入国制限、重要インフラ防護、軍事機密保護などに限って例外措置を認める余地がある。

ただし、ここでも包括的な「安全保障に必要な措置」という書き方は避けるべきである。安全保障は、政府の裁量が最も広がりやすい領域だ。 情報統制、移動制限、報道制限、通信制限、財産制限などへ拡張される危険があるため、権限は限定列挙されなければならない。

政府が「敵に利する情報」「不安をあおる情報」「外国勢力と連動した情報」などを広く解釈し、報道機関、研究者、ジャーナリスト、SNS発信者に圧力をかけることは、憲法によって厳しく防止される必要がある。 これはかつての戦争でも実際に生じた事態であり、決して楽観視してはならない。

5. 緊急政令・緊急財政処分の範囲

2026年4月16日の審査会では、緊急政令・緊急財政処分が重要論点として明確に位置づけられた。 国会を開くことができず、議員が参集できないような事態において、一時的に法律や予算と同様の効力を有する緊急政令・緊急財政処分を内閣に付与することは、国家運営にとって死活的に重要であると述べられている3

また、同日の審査会では、緊急政令について、国会が立法機能を行使できない場合に、あらかじめ国会が設定した枠の範囲内で、内閣が一時的・暫定的に政令で必要措置を講ずるものだという趣旨の説明もなされている。3

この説明には一定の合理性がある。既存法の緊急政令で足りない場面があるなら、超法規的措置ではなく、憲法上の枠を設けて統制する方が立憲主義的だ、という理屈は成り立つ。

しかし、緊急政令は本来、国会の立法機能を内閣が一時的に代替する制度である。緊急財政処分も、国会の財政統制を一時的に例外化する制度である。したがって、最も強い正当化と歯止めが必要になる。

認めるとしても、事態類型ごとに、可能な措置を具体的内容で列挙すべきである。 以下は、各事態において許容しうる政令・財政処分の一案である。

災害型、感染症型

既に言及した通り、これらの事態では国会機能を維持することさえ実現できれば良いのであって、緊急政令・緊急財政処分の類は不要と考える。

テロ・内乱型

  • 避難指示
  • 一時的な立入制限
  • 重要施設警備
  • 交通・通信インフラ保全
  • 医療・物資輸送の優先措置
  • 武装組織への資金・物資供給遮断

安全保障型

  • 国民保護措置
  • 避難・退避支援
  • 攻撃国または交戦地域との出入国制限
  • 重要インフラ防護
  • 軍事作戦に直接関わる情報の一時的秘匿
  • 物資・燃料・医療資源の優先配分

制限されてはならないもの

いかなる緊急事態であっても、次のような措置は明示的に禁止されるべきである。

  • 表現の自由の制限(政府批判一般、抗議活動の制限など)
  • 知る権利の制限(報道機関への包括的検閲、通信の検閲など)
  • 結社の自由の制限(野党・市民団体の活動制限など)
  • 恒久的な通信監視制度の創設
  • 緊急事態と無関係な刑罰新設
  • 緊急事態と無関係な財産権制約
  • 選挙制度の恒久変更
  • 憲法改正発議

緊急事態を理由にした権限拡大は、必要最小限でなければならない。許容範囲および禁止範囲をそれぞれ明記することは、政府の濫用を抑止し、事後検証もしやすくすると考える。

6. 事態終了後の対応

緊急時には、政府の判断が十分に争われないまま、人権制約や情報秘匿が行われる可能性がある。 事態の最中には、国民も議会も司法も、十分な検証能力を持てない場合がある。

だからこそ、事態終了後の回復措置・検証制度が不可欠である。

事態中に出された緊急政令は、直ちに失効しなくてはならない。 緊急政令の正当性は「緊急事態である」ということによって立つからこそ、事態終了後はその正当性を失うのだから、事態終了に伴ってその効力を失うべきである。 また、執行した緊急政令によってなんらか権利を侵害・制限された事例があったのなら、それは事態終了後は速やかに回復・保障されるべきである。

このことを踏まえて、事態終了後には、独立した第三者委員会を設置し、次の事項を検証すべきである。

  • 緊急事態認定の妥当性
  • 事態継続判断の妥当性
  • 参議院緊急集会の延長判断
  • 緊急政令
  • 緊急財政処分
  • 人権制約措置
  • 情報秘匿
  • 行政機関による権限行使

この第三者委員会は、単なる報告機関にとどまってはならない。 違憲または違法の疑いがある事案を発見した場合には、裁判所へ憲法適合性審査を付議できる権限を持つべきである。

緊急事態を口実になされた人権侵害は、仮に事態の最中に黙認されてしまったとしても、事態終了後には確実に回復されなければならない。 そのためには、事後検証と司法審査への接続が必要である。

この制度は、ポルトガル憲法が非常事態・戒厳の実施について議会による監視を置いている点とも方向性を共有する。 ポルトガル憲法は、議会に対し、非常事態・戒厳の宣言の実施状況を精査する権限を認めている5

日本で制度化するなら、議会監視だけでなく、独立第三者委員会と司法審査を組み合わせる方が望ましいと考える。 なぜなら、緊急時の措置には、政府・与党だけでなく、国会多数派自身が関与している可能性があるからである。

7. 秘密指定の最大秘匿期間

安全保障型の緊急事態では、一定の情報秘匿を認めざるを得ない場合がある。

軍事作戦、情報源、同盟国提供情報、暗号技術、重要インフラ防護など、直ちに全面公開できない情報は存在する。

しかし、緊急事態を理由に秘匿された情報が、永久に秘匿されてはならない。

したがって、秘密指定には最大秘匿期間を設けるべきである。 事態終了後、秘密指定は原則解除されるべきであり、継続する場合には独立機関または裁判所の承認を必要とすべきだ。 継続理由の要旨は公開されるべきであり、国会の秘密会または特別監視委員会には開示されるべきである。

最大秘匿期間を過ぎた情報は、原則として公開され、検証に服さなければならない。 公開できない部分が残る場合でも、匿名化、部分開示、要旨公開などによって、民主的検証の対象から完全に外してはならない。

緊急事態は、政府に「見えない権力」を与える口実になってはならない。

8. 結論

私は、緊急事態条項の制定そのものを否定しない。

国会が正常に機能しない事態は想定可能であり、そのリスクに備える制度的意義はある。参議院の緊急集会だけであらゆる事態に対応できると断定することにも、民主的統制の観点から不安がある。

しかし、だからといって、議員任期延長、解散後の身分復活、包括的な緊急政令、包括的な緊急財政処分を広く認めるべきだとは考えない。

緊急事態条項を設けるなら、それは次のような制度であるべきである。

  • 参議院の緊急集会を中核に置く。
  • 緊急集会の延長は、通常国会への復旧手続として位置づける。
  • 議員任期延長と解散後の身分復活は認めない。
  • 事態類型ごとに、政府に認める権限を限定列挙する。
  • 緊急時であっても許されない措置を明示する。
  • 緊急政令・緊急財政処分は、事態類型ごとに必要最小限に限る。
  • 事態終了後、拡大された権限は当然に失効する。
  • 第三者委員会が全措置を検証し、違憲・違法の疑いがある場合は裁判所に付議する。
  • 緊急時に秘匿された情報には最大秘匿期間を設け、最終的には公開と検証に服させる。

要するに、緊急事態条項は「政府を強くする条項」であってはならない。

それは、非常時においても人権保障・国民主権・民主的統制・法の支配を守るために、政府の例外権限をあらかじめ限定し、事後に検証するための条項でなければならない。

比較憲法論を参照するなら、「各国にもあるから日本にも必要だ」という雑な導入論ではなく、「各国は非常権限をどのように限定しているか」を見るべきである。

政府に何を認めるかではなく、政府に何を認めないかを、憲法上どこまで明確に書けるのか。 日本で緊急事態条項を設けるなら、問うべきは常にこの一点である。

Footnotes

  1. https://www.jimin.jp/constitution/document/draft/ 日本国憲法改正草案

  2. https://storage2.jimin.jp/pdf/constitution/news/20180326_01.pdf 自由民主党憲法改正推進本部「憲法改正に関する議論の状況について」

  3. https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/025022120260416003.htm 第221回国会 憲法審査会 第3号(令和8年4月16日(木曜日)) 2 3 4 5 6

  4. https://www.publication.law.nihon-u.ac.jp/pdf/law/law_82_3/each/31.pdf 西 修(2016)『国家緊急事態条項の比較憲法的考察』日本法学 第八十二第三号 2

  5. https://www.parlamento.pt/sites/EN/Parliament/Documents/Constitution7th.pdf 『Constitution of the Portuguese Republic』 Article 19. 非常事態・戒厳について、発動事由、比例原則、停止される権利の明示、期間制限、停止不能な権利、緊急時の憲法改正禁止などを定める。 2 3

  6. https://www.constituteproject.org/constitution/France_2008#s74 『Constitution of France』 Article 16. 非常措置権限、発動要件、国会の当然集会、国民議会解散禁止、憲法院審査について定める。

  7. https://www.gesetze-im-internet.de/englisch_gg/englisch_gg.html#p0689 『Basic Law for the Federal Republic of Germany』Article 115a. 防衛事態の認定、連邦議会・連邦参議院の関与、特別多数、連邦議会解散禁止などを定める。

  8. https://www.senado.es/web/conocersenado/normas/constitucion/detalleconstitucioncompleta/index.html#t5 『Constitution of Spain』Article 116. 警戒事態、緊急事態、戒厳を区別し、警戒事態の15日制限と延長時の下院承認を定める。