Skip to main content
politics
#政治 #緊急事態条項

緊急事態条項についての私見 #3 追加論点

2026年5月14日の緊急事態条項イメージ案と憲法審査会での議論を踏まえ、追加論点、既出論点の再構成、権力統制を強化するための制度要件を整理する。

本稿の位置づけ

本稿は、2026年5月14日に衆議院憲法審査会資料として公開された「『緊急事態条項』のイメージ(案)1」(以下「イメージ案」)を踏まえ、追加で検討が必要と考える論点を整理するものである。

以下の論点には、既に憲法審査会で入口として取り上げられているものも含まれる。本稿の趣旨は、既出論点を踏まえたうえで、なお詰めるべき論理構造、制度要件、事後検証、救済手続、透明性確保の具体化を求める点にある。

本稿では、次の五点を整理する。

  1. 「緊急集会は暫定的だから任期特例が必要」という議論について
  2. 緊急事態条項に対するオンライン国会の位置づけについて
  3. 緊急事態の事後検証について
  4. 緊急事態における各種制限の限定について
  5. 緊急財政処分と情報秘匿の透明性について

1. 「緊急集会は暫定的だから任期特例が必要」という議論について

1.1 問題の所在

イメージ案および2026年5月14日の衆議院憲法審査会における説明では、参議院緊急集会の性格について、解散による衆議院不在の70日程度を想定した「一時的」なもの、内閣提案の緊急案件に関連するものに限られる「限定的」なもの、衆議院の同意を得られなければ失効する「暫定的」なもの、という整理が示されている。2

参議院緊急集会は、衆議院解散中に国に緊急の必要がある場合、参議院だけで国会機能を暫定的に代行する制度である。二院制国会を原則とする日本国憲法の下では、参議院緊急集会は通常国会そのものではなく、例外的・暫定的制度である。その意味で、この整理自体は理解できる。

しかし、「参議院緊急集会は一時的・限定的・暫定的制度である」という前提から、「議員任期特例が必要である」という結論に至る論理的必然性はない。 この前提から導けるのは、せいぜい「参議院緊急集会には一定の限界があるため、その限界をどのように補うか検討すべきである」という命題までである。

参議院緊急集会が暫定的な正確を持つからといって、そこから直ちに、議員任期特例を選択しなければならないとは言えない。

1.2 緊急集会の限定を補う方法について

参議院緊急集会に限界があるとしても、その限界の補い方は複数あり得る。

たとえば、次のような選択肢がある。

  • 参議院緊急集会の期間・延長条件を明確化する。
  • 参議院緊急集会で扱える案件を限定しつつ、通常国会への復旧手続として整備する。
  • 任期満了時にも参議院緊急集会を利用できることを明文化する。
  • オンライン国会・遠隔表決を整備する。
  • 繰延投票・選挙事務復旧を強化する。
  • 分散開催・代替議場を制度化する。
  • 災害時の選挙管理体制を事前に整備する。
  • 国会機能を維持するための緊急集会中の議題を限定する。

つまり、「緊急集会には限界がある」という前提は、任期特例という特定の方法を直接には基礎づけない。

議員任期特例を採用するのであれば、少なくとも次の比較が必要になる。

  1. 参議院緊急集会の整備と議員任期特例のどちらが、通常国会への復旧に資するか。
  2. どちらが選挙権・国民主権への侵害が小さいか。
  3. どちらが濫用されにくいか。
  4. どちらが事後検証に服しやすいか。
  5. どちらが通常の二院制国会への復旧を早めるか。

議員任期特例もまた、緊急時の例外制度である以上、一時的・限定的・暫定的でなければならない。

したがって、「参議院緊急集会が暫定的である」ことは、議員任期特例を採用する決定的理由にはならない。

1.3 参議院緊急集会を「通常国会への復旧手続」として捉える必要性

参議院緊急集会は、通常国会の代替や、ましてや議員任期特例へ移行するまでの中継制度でもない。 参議院緊急集会は、通常国会への復旧手続として設計されるべきと考える。

この場合、緊急集会の目的は、特殊な国家運営を長期化することではなく、できる限り早く衆議院総選挙を実施し、二院制国会を回復することに置かれるだろう。

そのため、緊急集会で扱える事項も、次のような最小限の範囲に限定することが考えられる。

  • 衆議院総選挙の実施に必要な措置
  • 通常国会再開に必要な措置
  • 国民の生命・身体の保護に必要な最小限の措置
  • 政府の緊急措置に対する監視
  • 緊急措置の終了・検証に関する事項

このように整理するならば、参議院緊急集会は、通常国会を代替する制度ではなく、二院制国会への復旧を支える制度として位置づけられる。

1.4 確認されるべき点

  • 参議院緊急集会の限界は、具体的にどの事態、どの期間、どの権限について生じるのか。
  • その限界は、緊急集会の期間・延長条件・権限の明確化では補えないのか。
  • オンライン国会、遠隔表決、分散開催、代替議場、繰延投票、選挙事務復旧では補えないのか。
  • 議員任期特例の方が、参議院緊急集会の拡張よりも選挙権・国民主権への侵害が小さいといえる根拠は何か。
  • 議員任期特例が通常国会への復旧を早めるといえる根拠は何か。
  • 任期特例によって、むしろ通常国会への復旧が遅れる危険はないのか。

議員任期特例を採用するのであれば、これらの代替案よりも任期特例の方が必要かつ相当であることを、具体的に立証する必要がある。

2. 緊急事態条項に対するオンライン国会の位置づけについて

2.1 問題の所在

オンライン国会自体は、既に憲法審査会で議論されている。2026年5月14日の衆議院憲法審査会では、2022年以降の議論経過として、緊急事態においてはオンライン出席も憲法56条の定足数算定の基礎となる「出席」と認められるとの議決がなされたことが紹介されている。2 また、2026年5月21日の憲法審査会では、オンライン国会について、緊急事態における国会機能維持のために有効かつ重要な手段である一方、停電・通信途絶、本人確認、不正アクセス、採決結果の改ざん対策、議長の議事整理などの課題があると指摘されている。3

本稿で問題にしたいのは、オンライン国会の是非や実現方法ではなく、緊急事態条項に対するオンライン国会の位置づけである。

オンライン国会は、緊急事態条項を構成する一部というより、緊急事態条項を最小化するための前提制度として位置づけられるべきと考える。

2.2 オンライン国会の位置づけ

国会機能不全を理由に緊急事態条項を設けるのであれば、まず国会機能不全を起こしにくくする制度を整備すべきである。 国会機能不全を起こしにくい制度を整備しないまま、「国会が機能しない場合があるから政府に例外権限を与える」とするのは、制度設計の順序として適切ではないと考える。

オンライン国会の整備により、次のような事態への対応可能性が高まる。

  • 大規模災害により議員が一斉に東京へ参集できない場合
  • 感染症により物理的会議が困難になる場合
  • 武力攻撃・テロ等により国会周辺が危険区域となる場合
  • 交通・通信インフラの一部が停止しているが、分散拠点からの参加は可能な場合
  • 一部議員が被災地・避難地・地方拠点から参加せざるを得ない場合

これらに対応できる制度があれば、国会機能不全を理由とする任期特例や緊急政令の必要性は自ずと小さくなる。

2.3 整備すべき制度要件

既に憲法審査会でも指摘されている通り、オンライン国会には課題があるのも確かである。 しかし、これらの課題はオンライン国会を否定する理由ではなく、制度設計上の検討課題であることに注意したい。

少なくとも、次の制度整備を先に検討すべきと考える。

  • オンライン出席の要件
  • 遠隔表決の本人確認
  • 表決記録の真正性確保
  • 通信途絶時の議事停止・再開ルール
  • 代替通信手段
  • 分散議場の設置
  • 秘密会・安全保障情報を扱う場合の通信安全性
  • 議事公開と国民の知る権利の確保
  • 障害のある議員・高齢議員等への合理的配慮

2.4 確認されるべき点

  • オンライン国会・遠隔表決・分散開催を整備した場合でもなお、議員任期特例や緊急政令が必要となる事態は何か。
  • その事態は、どの程度の蓋然性をもって想定されるのか。
  • オンライン国会を整備しないまま、国会機能不全を理由に緊急事態条項を設けることは、制度設計の順序として妥当か。
  • 緊急事態条項の前提として、オンライン国会を先に整備するべきではないか。

オンライン国会が認められず、あるいはオンライン国会が事前に整備されないのであれば、国会機能不全を理由とする緊急事態条項も認めるべきではないとするのが、本稿の見解である。

3. 緊急事態の事後検証について

3.1 問題の所在

イメージ案では、選挙困難事態認定への裁判所関与について、事態終了後の国政選挙によって判断されるため裁判所の関与は不要とする考えが示されている。1

この点については、2026年5月14日の憲法審査会でも、選挙だけでは権力統制として十分とは言えないとの指摘が、チームみらいの古川議員よりなされた。具体的には、選挙は民意を伝える手段として情報量が限られ、一票の意味は多義的であり、投票は白紙委任でも特定の政策判断への賛否を明確に問える手段でもないこと、また、選挙困難事態の認定を行った政権が都合のよいタイミングで選挙を実施する可能性もあることから、事後の選挙結果のみで問う仕組みは権力統制として十分とは言えないとの指摘である。2

本稿も、この指摘に同意する。 選挙は、今後の政治判断を誰に委ねるかを決める制度ではある。しかし、過去の緊急措置の憲法適合性・法的適合性を審査する手続ではない。

したがって、緊急事態終了後には、選挙とは別に、緊急事態中の措置について事後検証を制度化する必要がある。

3.2 選挙で判断できること・できないこと

選挙では、有権者が過去の政策判断を材料にして投票することができる。したがって、緊急事態中の政府対応や国会対応は、当然、投票判断の材料になり得る。

しかし、それは、選挙が過去の緊急措置の法的適合性を審査する制度であることを意味しない。

選挙で問われるのは、基本的には次の問題である。

  • 今後の政治判断を誰に委ねるか。
  • どの政党・候補者に代表を任せるか。
  • 過去の政治判断を踏まえ、今後の政治方向をどう選ぶか。

一方で、次のような問いは、選挙では制度的に審査されない。

  • 緊急事態認定が発動時点で憲法上の要件を満たしていたか。
  • 選挙延期や任期特例が必要最小限だったか。
  • 緊急政令が許容範囲を超えていなかったか。
  • 緊急財政処分が恣意的ではなかったか。
  • 人権制約が比例原則に適合していたか。
  • 情報秘匿が必要最小限だったか。
  • 財政支出や契約が特定企業・特定団体へ不当に偏っていなかったか。
  • 緊急事態認定の継続判断が妥当だったか。
  • 緊急事態解除が不当に遅らされたか。

これらは、政治的評価だけでなく、法的・制度的な検証を要する問題である。 選挙を以てこれらの問題について評価されたと判断するのは、選挙に過剰な意味・役割を与えていると評価すべきと考える。

3.3 独立第三者機関による事後検証

裁判所による事後検証は、過去の憲法審査会でも議論されている。2026年4月16日の憲法審査会では、推進側からも、選挙困難事態における議員任期延長の濫用防止の観点から、内閣・国会による事態認定の適正さを担保するための裁判所の関与の在り方が、今後深掘りすべき論点として示されている。4

しかし、緊急政令等が期間中に多数発令されていた場合、すべてを直ちに裁判所で扱う設計には、司法に過大な負荷がかかる可能性がある。また、その負荷を懸念して十分な検証が行われない制度設計になってしまうことも避ける必要がある。

そこで、事後検証については、まず独立した第三者機関が緊急事態中の措置を整理・検証し、その結果を原則として国会に報告し、報告書を公表する仕組みを考えたい。

この第三者機関は、裁判所の代替機関ではない。むしろ、裁判所による個別救済手続へ接続するための前段階として、事実整理、問題の特定、対象者通知、資料アクセスの確保を担う機関として設計するものとして考える。

3.4 第三者機関の検証対象

第三者機関の検証対象には、少なくとも次を含めるべきと考える。

  • 緊急事態認定
  • 継続判断
  • 解除判断
  • 選挙延期
  • 議員任期特例
  • 議員身分復活
  • 緊急政令
  • 緊急財政処分
  • 人権制約
  • 情報秘匿
  • 財政支出
  • 契約・調達・補助金配分
  • 政府による理由公表の妥当性
  • 緊急事態中の国会統制の実効性

特に重要なのは、緊急事態認定や延長判断だけでなく、その下で行われた個別措置まで検証対象に含めることである。

3.5 国会報告・報告書公表・対象者通知

第三者機関は、検証結果を国会に報告し、報告書を原則として公表する制度にすべきである。 国会報告だけでは、政治的処理で終わる可能性がある。報告書が公表されれば、国民、報道機関、研究者、自治体、被害者、裁判所が、後から検証できる。

また、違憲・違法・不当の疑いがある緊急政令等については、その影響を受けた個人・団体・自治体・事業者等に通知する仕組みが必要である。 通知を受けた者には、次のような救済アクセスを保障すべきである。

  • 関連資料へのアクセス
  • 不服申立てへの接続
  • 訴訟への接続
  • 国家賠償請求への接続
  • 出訴期間・不服申立期間の特例
  • 必要に応じた法律扶助
  • 秘密情報が関係する場合の要旨開示または代理人限定開示
  • 集団的被害がある場合の団体申立て・代表的手続

緊急事態中には、通常の出訴期間や不服申立期間が経過してしまう可能性がある。そのため、第三者機関の通知を起点に、一定期間、救済手続へアクセスできるようにすることも検討が必要だろう。

3.6 確認されるべき点

  • 緊急事態終了後の事後検証を、憲法上どのように保障するのか。
  • 国会報告だけで足りるのか、報告書公表を義務づけるべきではないか。
  • 不当・違憲・違法の疑いがある措置について、対象者へ通知する仕組みを設けるべきではないか。
  • 対象者が資料へアクセスし、救済手続へ接続できる仕組みを憲法上または法律上明記すべきではないか。

4. 緊急事態における各種制限の限定について

4.1 問題の所在

緊急時の各種制限について、抽象的に「必要な制限」を認めるべきではないと考える。

「緊急事態において必要な措置をとることができる」といった包括的な文言は、政府に広範な裁量を与える危険がある。特に、災害、感染症、内乱、武力攻撃、安全保障上の危機を一括して扱う場合、ある類型で必要とされた権限が別の類型へ横滑りする危険がある。このことは、2026年5月14日の憲法審査会でも、日本共産党の畑野議員より指摘がある。2

同日の憲法審査会では、緊急政令・緊急財政処分について「生命、自由、財産といった国民の権利保障に資する場合にだけ発出することができるといった要件を加重すべきではないかとの意見も述べられている」ことが言及されている。 この見解そのものには大筋で同意するが、「生命、自由、財産といった国民の権利保障に資する場合」という記述は抽象的であり、濫用の歯止めとしては不十分と考える。

緊急時に例外的に許される制約は、具体的措置を列挙する方式で限定すべきであると考える。

4.2 具体的措置列挙方式の基本構造

ここでいう具体的措置列挙方式とは、「制限できる権利名」を抽象的に列挙する方式ではない。 たとえば、「集会の自由を制限できる」とだけ書くと、政府批判集会、労働運動、市民運動、野党活動まで広く制限できるように読まれる危険がある。

したがって、列挙すべきなのは権利名ではなく、具体的な措置類型である。 たとえば、次のような形である。

  • 特定危険区域への一時的立入制限
  • 安全地帯への避難命令
  • 感染症対策上必要な短期の施設利用制限
  • 公正補償を伴う一時的な施設・物資使用
  • 代替措置を伴う学校施設の一時使用
  • 生命身体への直接的・具体的危険を発生させる情報流通への限定的措置
  • 重要インフラ防護のための一時的・限定的立入制限
  • 避難・救助・医療提供のために必要な一時的交通規制

このように、制限可能な具体的状況および具体的措置だけを列挙し、それ以外は認めないという方式を採るべきと考える。

外国の例として、ポルトガル憲法19条6項は非常事態(state of emergency)・戒厳(state of siege)について、発動事由、比例原則、停止される権利の明示、期間制限、停止不能な権利、緊急時の憲法改正禁止などを定めている。 そこでは生命、身体の安全、個人の同一性、法的能力および市民権、刑法の遡及禁止、被告人の防御権、あるいは良心および信教の自由は、非常事態・戒厳を問わず制限を禁じることが明記されている。5

ポルトガル憲法のケースでは「侵害されてはならない権利」を列挙しているが、濫用の抑制という観点では、むしろ「明記されている具体的状況かつ具体的措置に限り許容する」という方式の方が強く機能するのではないかと考える。

4.3 措置ごとに必要な限定条件

当然ながら、列挙された措置ならば無条件に緊急政令・緊急財政処分の対象として良いというわけではない。 少なくとも、各措置について次を明記すべきである。

  • 対象事態
  • 対象地域
  • 対象者
  • 期間
  • 目的
  • 必要最小限性
  • 代替手段の検討
  • 補償の要否
  • 理由公表
  • 国会への報告
  • 事後検証
  • 救済手続への接続
  • 解除条件

たとえば、「特定危険区域への一時的立入制限」であれば、どの区域が危険区域であるのか、その根拠は何か、誰が判断するのか、いつ解除されるのか、住民の避難・生活保障はどうするのか、立入制限によって損失を受けた者への補償はどうするのかが問題になる。 「感染症対策上必要な短期の施設利用制限」であれば、対象施設、対象期間、感染拡大防止との関連、代替措置、教育・営業・生活への影響、補償、事後検証が問題になる。

4.4 確認されるべき点

  • 緊急時の人権制約を、抽象的な「必要な制限」として認めるのではなく、具体的措置の列挙に限定すべきではないか。
  • 権利名単位ではなく、措置類型単位で限定すべきではないか。
  • 列挙されていない制約は禁止すべきではないか。
  • 列挙された措置であっても、対象地域、対象者、期間、目的、必要最小限性、補償、理由公表、事後検証を伴わせるべきではないか。

5. 緊急措置に伴う情報秘匿と透明性について

5.1 問題の所在

緊急事態条項にあたっては、緊急政令・緊急財政処分といった形での緊急措置権限が論点として挙げられている。

これらの緊急措置が情報秘匿と結びつく場合、その必要性、相当性、対象範囲、効果、被害、責任の所在を事後に検証することが困難になる。 緊急措置全般について、どのような根拠で、誰に対して、どの範囲で、どの期間、どのような権限が行使されたのかが秘匿されると、国会による検証、第三者機関による検証、対象者による救済手続のいずれも困難になる。

特に、次のような情報が秘匿される場合には注意が必要である。

  • 緊急事態認定の根拠資料
  • 緊急政令の必要性を示す資料
  • 緊急財政処分の必要性を示す資料
  • 人権制約の対象、範囲、理由
  • 立入制限、避難命令、施設利用制限等の根拠
  • 情報発信や通信に対する制限の根拠
  • 安全保障上の措置の必要性・範囲・期間
  • 政府判断の過程
  • 被害見積もりやリスク評価
  • 緊急措置によって生じた不利益や損失
  • 契約・調達・補助金配分など、財政支出に関する資料

これらの情報は、緊急措置が本当に必要最小限だったのか、特定の個人・団体・地域・企業に不当な利益または不利益を与えていなかったかを検証するために必要であり、秘匿されるべきではない。

仮に緊急事態条項を認め、また緊急政令・緊急財政処分をも許容するとしても、同時にその必要性・妥当性を検証するために必要な情報の一切を公開を義務付けるよう、憲法上規定するべきと考える。

5.2 情報秘匿が許容される場合と、その限界

緊急事態条項においては、テロや外国による武力行使などが事態認定のひとつとして想定されている。 こういった場合、安全保障の観点から一定の情報秘匿が必要になる場合はあり得る。

たとえば、作戦中の部隊配置、重要インフラの脆弱性、避難計画の詳細、情報提供者の保護、攻撃対処に関する技術情報などは、直ちに全面公開できない場合がある。

しかし、それら情報であっても、その秘匿は無期限・無限定に認められるべきではないと考える。 緊急事態を理由とする情報秘匿には、少なくとも次の条件を置くべきである。

  • 非公開理由の明示
  • 非公開範囲の明示
  • 秘匿期間の上限
  • 要旨公開
  • 秘匿継続の定期審査
  • 独立機関による秘匿妥当性審査
  • 国会への限定的報告
  • 第三者検証機関への資料提出
  • 事態終了後の段階的公開
  • 期間満了後の原則公開

情報秘匿は、緊急措置の検証を不可能にするための手段であってはならない。 緊急時に一時的な秘匿が必要な場合でも、それは事後公開と第三者検証を前提とする一時的例外として位置づけることを、憲法上明記するべきと考える。

5.3 対象者の救済との関係

緊急措置によって不利益を受けた個人・団体・自治体・事業者が、自ら受けた措置の根拠を確認できなければ、救済手続に接続できない。

たとえば、避難命令、立入制限、施設利用制限、営業制限、物資使用、情報発信への制限、財産権への制約などが行われた場合、その対象者には、少なくとも次の情報へアクセスできる仕組みが必要である。

  • 自分または自団体に対する措置の根拠
  • 措置の対象期間
  • 措置の対象地域
  • 措置の法的根拠
  • 措置の必要性・相当性に関する説明
  • 補償・救済の有無
  • 不服申立て・訴訟・国家賠償請求等への接続

安全保障上の理由などにより全文開示が困難な場合でも、要旨開示、代理人限定開示、第三者機関を通じた確認などの方法を憲法上保障すべきであると考える。

秘匿を理由に、対象者が自らの権利侵害を争う機会まで失わせることは許されない。

5.4 確認されるべき点

憲法審査会または党内議論では、次の点が確認されるべきである。

  • 緊急政令、緊急財政処分、人権制約、安全保障上の措置について、どの情報を秘匿できるのか。
  • 情報秘匿の理由、範囲、期間を明示する仕組みを設けるべきではないか。
  • 緊急措置に伴う情報秘匿には、最大秘匿期間を設けるべきではないか。
  • 全面公開が困難な場合でも、要旨公開や第三者機関への資料提出を義務づけるべきではないか。
  • 事態終了後には、秘匿情報を段階的に公開し、期間満了後は原則公開とすべきではないか。
  • 緊急措置により不利益を受けた個人、団体、自治体、事業者が、必要な資料にアクセスし、救済手続へ接続できる仕組みを設けるべきではないか。
  • 財政支出についても、契約相手、金額、随意契約理由、補助・給付基準、利益相反、再委託構造を事後検証可能にすべきではないか。

まとめ

緊急事態条項は、政府に強い権限を与えるための条項であってはならない。

むしろ、非常時にもなお、政府が越えてはならない境界と、政府が果たすべき保障義務を明記するための条項として設計されるべきである。

そのため、条文化に進む前に、少なくとも次の点が明示的に検討され、立法ではなく憲法において実現されるべきと考える。

  • 「緊急集会は暫定的だから任期特例が必要」という推論には、論理的必然性が無く、議員任期特例を採用するなら、他の代替手段よりも任期特例の方が必要かつ相当であることを具体的に立証する必要があること。
  • オンライン国会、遠隔表決、分散開催、代替議場を先に整備すべきこと。
  • 選挙は、過去の緊急措置の憲法適合性を審査する制度ではなく、緊急事態終了後には、独立機関による検証、国会報告、報告書公表、対象者通知、救済アクセスを保障すべきこと。
  • 人権制約は、抽象的な権利名ではなく、具体的措置の列挙方式で限定すべきこと。
  • 緊急措置の必要性・妥当性に必要な情報は公開され、情報秘匿が必要な場合であっても事後の原則公開を制度化すべきこと。

以上の論点は、緊急事態条項への賛否以前に、仮に条文化を進めるのであれば最低限確認されるべき制度的歯止めである。

関連

Footnotes

  1. 衆議院法制局・衆議院憲法審査会事務局(2026)「『緊急事態条項』のイメージ(案)」衆議院,2026年5月14日 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/2210514housei_kenshin-siryou.pdf/$File/2210514housei_kenshin-siryou.pdf 2

  2. 衆議院憲法審査会(2026)「第221回国会 衆議院憲法審査会 第5号 令和8年5月14日」衆議院,2026年5月14日 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/025022120260514005.htm 2 3 4

  3. 衆議院憲法審査会(2026)「第221回国会 衆議院憲法審査会 第6号 令和8年5月21日」衆議院,2026年5月21日 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/025022120260521006.htm

  4. 衆議院憲法審査会(2026)「第221回国会 衆議院憲法審査会 第4号 令和8年4月16日」衆議院,2026年4月16日 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/025022120260416004.htm

  5. https://www.parlamento.pt/sites/EN/Parliament/Documents/Constitution7th.pdf 『Constitution of the Portuguese Republic』 Article 19 6. In no case may a declaration of a state of siege or a state of emergency affect the rights to life, personal integrity, personal identity, civil capacity and citizenship, the non-retroactivity of the criminal law, accused persons’ right to a defence, or the freedom of conscience and religion.